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気ままにギャラリートーク №2 [文芸美術の森]

                         
《転生≫

                       小平市平櫛田中彫刻美術館 主査・学芸員 藤井 明 

「転生」 のコピー.jpg

 

  たくましい体つきをした鬼が、口から長いものを出しています。舌かと思いつつ、近づいてみて、びっくり。人間ではありませんか。
 この作品は、生ぬるい人間を食べた鬼が、あまりのまずさに思わず吐き出してしまうという、田中の郷里である岡山地方に伝わる話にもとづいて作られました。
 生ぬるい人間とは、いい加減な人のことです。田中はそんな人間にならないよう、自戒の気持ちを込めて制作したのでした。
 姿は空想によって作られていますが、体つきはとてもリアル。それもそのはず、この作品に取り掛かる数年前まで、田中はひたすらモデルを使い西洋風の写実的な表現の研究に打ち込んでいました。
その頃は研究を目的とした習作ばかりを作っていたので、収入はほとんどありませんでした。毎日の米櫃を心配する家族に、田中は「飢えるようなことがあれば、自分が真っ先に逝く覚悟がある」と言って説得したのだとか。田中こそ「生ぬるくない」人間の代表と言えますが、こんな人を夫や父親に持った家族は大変だったことでしょう。ですが、こうした覚悟があってはじめて、本作のような素晴らしい作品が生まれたに違いありません。
この作品の素晴らしさは、破綻のない力強い肉体表現にあります。この作品のように像高が2メートルくらいの大きさになると、調和の取れていないところが目立ってくるものですが、それが感じられません。最初に全体の形を支配する大きな構造をきちんと把握し、それに基づいて各部を制作しているからでしょう。
また、この作品には内部がぎゅっと詰まったような力強さ(量塊性)を感じますが、それも制作時に対象の表面ばかりに意識を向けるのではなく、作品の内部から外側に張り出してくる力を意識しながら作った結果なのでしょう。
平櫛田中彫刻美術館でご覧いただける作品は、東京藝術大学に所蔵される木彫作品から型を取り、鋳造されたブロンズ作品です。田中の代表作とされるだけに、高さ2メートルもあるこの作品は、今にも動き出しそうな迫力に満ちています。だから閉館後の館内で、一人でこの作品のそばにいるとなかなか怖い。動かないはずの腕がいきなりこちらに伸びてきて…。そんな奇怪な現象がひょっとして起きるかもしれないのですから。でも大丈夫。もしそんなことが起こっても、田中のような覚悟を持てない私は、きっと吐き出されてしまうことでしょう。

* * * * * * * * * * * *                                                                       平櫛田中について 

平櫛田中は、明治5年、現在の岡山県井原市に生まれ、青年期に大阪の人形師・中谷省古のもとで彫刻修業をしたのち、上京して高村光雲の門下生となる。その後、美術界の指導者・岡倉天心や臨済宗の高僧・西山禾山の影響を受け、仏教説話や中国の故事などを題材にした精神性の強い作品を制作した。
大正期には、モデルを使用した塑造の研究に励み、その成果を代表作《転生》《烏有先生》など。昭和初期以降は、彩色の使用を試み、「伝統」と「近代」の間に表現の可能性を求め、昭和33年には国立劇場の《鏡獅子》を20年の歳月をかけて完成した。昭和37年には、彫刻界でのこうした功績が認められ、文化勲章を受章する。
昭和45年、長年住み暮した東京都台東区から小平市に転居し、亡くなるまでの約10年間を過ごした。昭和54年、107歳で没。


秋季展示
  会期:平成25年8月28日(水)~平成25年11月10日(日)
  田中が収集した円空仏など「信仰のかたち」をテーマに展示します。

わくわく体験美術館ウィーク◆
  日にち:10月26日(土)~11月4日(月・祝)
 上記の期間中、小・中学生は無料で観覧できます。

小平市平櫛田中彫刻美術館  〒187-0045 東京都小平市学園西町1-7-5
           Tel&Fax:042-341-0098     URL:http://denchu-museum.jp/gaiyo


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