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フェアリー・妖精幻想 №86 [文芸美術の森]

童話作品に描かれた妖精界 3

              妖精美術館館長  井村君江

『プークが丘のパック』と『水の子』

 ルドヤード・キップリングの『プークが丘のパック』(一九〇六)は、物語の発端が『夏の夜の夢』である。しかし物語の舞台は、サセックスのロングスリップで、その草原にある妖精の輪の中を舞台に見立て、ダンとユーナの兄弟が芝居の稽古をしているところへ突然パックが現れる。
 「小さな男の子の姿、薄茶色の皮膚、とんがり耳に獅子鼻でやぶにらみ、ソバカスの顔、いかつい肩、うす気味わるい笑いを浮かべている」とあり、ホプゴブリンの不気味な面が強調されている。
 アーサー・ラッカム(一八六七-一九三九)が描いたのは、この物語の中でパックが語る昔話の場面である。ヘンリー八世時代のロムニーの沼地の場面で、ウィットギフト夫人と二人の農夫のところにフェアリーたちが押しかけ、宗教改革でイギリスは混乱に陥った。この国にフェアリーはもう住めないから、舟を仕立ててフランスへ逃してくれ」と、カエルのような声で口々に頼んでいるところである。
 ウィットギフト夫人にだけはフェアリーが見えるが、あとの二人にはキーキー声は聞こえても姿は見えていない。トンボの翅をつけた少女のような美しいものから、ネズミのような顔や烏の足をした気味の悪いダークエルフたちがさまざまな表情をみせ荷物をまとめ、子供を背負っている。彼らは、フランスへ集団脱出しようとひしめき合い、夫人の裾を引っ張って頼んでいる。物語の成り行きでは夫人は彼らに舟を与え、一人だけ残ったパックは夫人の子孫に妖精を見る力を与える。ダンとユーナは夫人の子孫なのでパックが見えるのである。撤密なペン画の上に水彩をほどこしたこの給は、ヴィクトリア・アルバート美術館に現在は所蔵されているが、挿絵ではなく独立した一幅の作品として描かれたものである。
 チャールズ・キングスレイの『水の子』(一八六三)は、煙突そうじの少年トムが、厳しいグライムズのところから逃げ出し、水に入って「水の子」に変身し、水の底の自由な世界でフェアリーたちとつきあいながら冒険を重ねていき、ついには広い愛の心を知り、親方を許すというやや教訓的な物語である。
 トムと妖精たちが展開する、水の底のさまざまな場面が画家たちの想像をかきたてたようで、ラッカムをはじめヒース・ロビンソン、ウィルコックス・スミス、ウオーリック・ゴーブル、アン・アンダーソンなどが特色ある挿絵をつけて、それぞれ美しい本にまとめている。
 無防備な水の子供になってしまい、トンボや魚の攻撃に遭い、餌にされるところを、美しい水の妖精が救ってくれ、他の子供たちと共に緑の水藻 や白い水蓮の花に囲まれた妖精の女王の裳裾につかまりながら泳いで行く。妖精の女王はそうした小さな子供たちを守る妖精の代母(フェアリーゴッドマザー)のような役割であるが、特にウォーリック・ゴープルの暖かい線と色彩の挿絵は、よくその世界と妖精の特徴をとらえ、抒情性のある水の世界を描いている。

『フェアリー』 新書館


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