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論語 №26 [心の小径]

六〇 子のたまわく、関睢(かんしょ)は楽しんで淫(いん)せず、哀(かな)しんで傷(やぶ)らず。

                                       法学者  穂積重遠

 「関睢」は『詩経』の有名な一篇だが、文王の后(きさき)が夫のためによき側室(そばめ)を得たしと苦心し、それを得ては妻妾よく内助した、ということを歌ったのであって、今日の道徳からは変なものだが、孔子様の言わんとするところは、その詩の文句なり、またそれを歌う音楽なりが極端過度ならぬにつけて、喜びにも悲しみにも節制あるべし、ということである。

 孔子様がおっしゃるよう、「関睢の詩は、楽しみの度が過ぎて正しき道をはずれず、悲しみの度が過ぎて本心を取り失わぬもので、誠にけっこうじゃ。」

 「楽」と「哀」と「淫」と「傷」との対句で、実に金言だ。すぐ有頂天になるかと思うとたちまちペシャンコになるようなことでは、問題にならない。

六一 哀公(あいこう)社を宰我(さいが)に問う、宰我対(こた)えていわく、「夏后氏(かこうし)は松(しょう)を以てし、殷人(いんひと)は柏(はく)を以てし、周人は栗(りつ)を以てす。いわく、民をして戦栗(せんりつ)せしむ。子これを聞きてのたまわく、成事(せいじ)は説かず、遂事(すいじ)は(いさ)めず、既往(きおう)は咎(とが)めず。

 「社」は文字どおり土地の神の社(やしろ)であって、一定の木を植えて神体としたものらしい。宰我は門人宰子(さいし)、字は子我(しが)、弁才(べんさい)で子貢(しこう)とならべられているが、ここでは口が過ぎてしかられ、後には口ほどでもないとしかられ、いわゆる十哲中では優等生でないようだ。

 「柏」は日本では「かしわ」とよむが、中国では「松柏の凋(しぼむ)に後(おく)る」などといってときわ木の「カヤ」である。ここでは「栗」を「リツ」と音でよまなくては「慄」と通ずるシャレにならぬ故、「松」「柏」も「ショウ」「ハク」とよむ。
 最後の三句は当時のことわざらしい。

 哀公が社の神木について宰我にたずねたとき、宰我が「夏の時代には松を用い、殷の時代には柏を用い、周になってから栗を用いるようになりました。それは人民を戦慄させる、という意味であります。」と答えた。孔子様がそのことを聞いておっしゃるよう、「出来たことは言うまい、済んだことは諌めまい、過去はとがめまいが、将来はさような余計なこじつけを申すまいぞ。」

 故実を述べるだけにしておけばよかったのに、例の口が過ぎた上に、先生大きらいな恐嚇(きょうかく)政治が周の国是のようにいったので、真綿で首をしめるようなお小言をちょうだいしたのだ。
                                        
六二 子のたまわく、管仲の器小なるかな。或(ある)人いわく、管仲は倹なるかな。のたまわく、管氏に三帰(さんき)あり。官事(かんじ)摂(か)ねず。いずくんぞ倹を得ん。然(しか)らばすなわち管仲は礼を知るか。のたまわく、邦君樹して門を塞(ふさ)ぐ。管氏もまた樹して門を塞ぐ。邦君両君の好を為すに反坫(はんてん)あり。管氏もまた反坫あり。管氏にして礼を知らば、たれか礼を如らざらん。

 管仲は斉(せい)の桓公(かんこう)を補佐して覇業(はぎょう)を成就した有名な英雄。
 「三帰」を妻を三人もつこととする人もあるが、倹約かどうかという問題だから、「三帰台という「うてな」と解しておこう。台を造るということが昔の中国の王公のぜいたくざたなのだ。「官事」はここでは「家事」というくらいの意味。「反坫」は盃輿を伏せる台。

 孔子様が「管仲の人物は小さいのう。」とおっしゃった。そこである人が、それをケチケチしているという意味と思って、「管仲は倹約なのですか。」とおたずねした。「管仲は家に『三帰台』という『うてな』を設けたり、一人一役でおおぜい召使を置いたりするぜいたくざたであった。どうして倹約なものか。」「それでは管仲は礼を知ってそれにこだわるので、人物が小さいとおっしゃるのですか。」「諸侯の屋敷では門内に植え込みを作って目かくしにするきまりだが、管仲は大夫の分際で私邸の門内に目かくしの木を植えた。また諸侯の交際の宴会に反坫という盃台をつかうことになっているところ、管仲も反坫を用いた。管仲が礼を知っているというならば、誰が礼を知らぬものがあろう。」

 管仲の覇業は孔子様も認められたこと、後に見えるが、手柄におごって潜上非礼(せんじょうひれい)をするようなことでは人物が小さい、と評されたのである。

『新訳論語』 講談社学術文庫


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