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フェアリー・妖精幻想 №85 [文芸美術の森]

童話世界に描かれた妖精界 3

              妖精美術館館長  井村君江

『炉端のこおろぎ』とマックリース

 ドイルの妖精の本が世に出た時、批評家たちはクリスマス時期になると広く読まれるディケンズのクリスマスの本と並べて記事を書いたが、クリスマスシリーズの本として競争に耐えうるものと折紙をつけている。この時代、ディケンズの物語は大人から子供まで広い層に読まれており、『クリスマス・キャロル』(一八四三)、『炉端のこおろぎ』(一八四五)などは「永遠のクリスマス文学」と呼ばれていた。
 ディケンズの『炉端のこおろぎ』は「家庭のフェァリー・テール」と副題にあるように、炉端に鳴くこおろぎの声が苦しむ人々の心をやわらげ、妻の誠実さを疑っている夫の心を慰めたりするという物語である。炉端に鳴くこおろぎを中心にヴィクトリア朝時代の人間の生活と心を描き分けた作品である。
 当時有名な挿絵画家やアカデミーのメンバーでもある画家たち五人の絵を、ダルジェル兄弟やスウェインたちが版画に彫って精妙な画面に仕上がっている。時計が十二時を打ち、フェアリーが出没する時間がくると、ツリガネ草の帽子をかぶった裸のエルフや、蝶の麹をつけたエプロンにほうきを持ち、髪飾りをつけたメイドスタイルの家事好き妖精が、時計の振子のブランコに乗って戯れたり、掃除を始めたりする。こうした光景が、マックリースのしっかりしたデッサンで、しかも軽妙でコミカルな筆致で描き出されている。
 扉につけられた挿絵も、まさにこの物語の主題を良く理解しての場面構成がなされている。やかんが沸騰する暖炉の前で、夫婦がゆりかごの赤ん坊に妖精が戯れているのも知らずに、互いにもの思いに耽っている。その情景が、動画のように上部の空間にいくつかのコマに分けて描かれている。炉端の中央にいるこおろぎの背の上に裸の妖精の代母が乗っており、魔法の杖をかかげて次の物語の展開を準備している。滑稽に陥る一歩手前で救われているのは、マックリースの端正で手がたい筆致の故であろう。

『フェアリー』新書館

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