So-net無料ブログ作成
  • ブログをはじめる
  • ログイン

フェアリー~妖精幻想 №90 [文芸美術の森]

「夏の夜の夢」と「嵐」 2

                     妖精美術館館長  井村君江

挿絵黄金期の妖精絵師 アrサー・ラッカム 2

 『夏の夜の夢』はティタニアとボトムの場面であるが、日本画風の額縁の中に描かれたエルフたちは蝶やトンボの翅をつけて緑の野に行儀よく並び、線描による空の描写と相まって落着いてスタティックな画面になっている。それに比べてエアリエルがキャリバンをからかっている『嵐』の絵の方が動きがある。ラッカムの妖精画につきものの細い枝をからませた樹木の上を軽々浮くエアリエルと、ひび割れた土の象徴のようなキャリバンである。
 第二期の『夏の夜の夢』になると、どこから見てもラツカムの作とわかる個性を持ったパックやオベロン、ティタニアが、古木信仰ともいえる木の根の節くれ立った根っこや枝の間に、目を光らせ踊り跳ねている。土俗的なアニミズムの生命力が、木の根に腰かけるパックや妖精を息づかせているようである。「フェアリーやゴブリン、エルフにピスキーたちは、自然に住むネズミと同じく現実的だ」というラッカムにとって、織物師のボトムと妖精女王ティタこアたちが織りなす森のドラマは、最も好みの主題であったことがわかる。
 最晩年のペンとセピア色を主とした淡彩の『夏の夜の夢』は、手馴れた筆致で簡略化された構図に、妖精たちが自然なタッチで描かれている。パックの引くカーテンから身体をのぞかせる、トンガリ耳で細い鼻の妙な小さい生きものたちの一つ一つの表情にも、惹き込まれるような魅力があり、一歩間違えば漫画になるところを、手堅いスケッチの手法と上品な色調がその危険を救っている。
 『山歴』もまた、特に日本画の模様に似た形と色の岩や波や木々が、誇張化され、平面化や象徴化をほどこされ、まるで模様のように図案化されて、光琳屏風を見る思いすらある。空を飛ぶエアリエルのまわりに広がる夕空の微妙な色調にぼかされた雲の描き方もまた東洋的である。こうした超現実的な手法や描き方も、妖精の幻想性や神秘性にふさわしかったといえよう。
 ラッカムは「ラッカメアー・フェアリー」と呼ばれた妖精の映像を、ヴィクトリア朝時代の人々の脳裡に焼きつけるのに成功したが、その余波が日本ではまだ強く残るようである。

A.ラッカム「夏の夜の夢」.jpg
アーサー・ラッカム「夏の夜の夢」

『フェアリー』 新書館

nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。