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日めくり汀女俳句 №15 [ことだま五七五]

二月十日~二月十二日

                  俳句  中村汀女・文  中村一枝

二月十日
早梅(そうばい)や健(すこ)やかなれと言ひ交(かわ)し
             「山粧ふ」 早梅=冬
 昨日は冷たい北風が吹き、今日は温度が三度上がったとかで首のあたりがほわーっと暖かい。縮まっていた体が伸びやかにほぐれていく。
 「おーい南、どこ行くんだぁ」
 黄色い帽子の男の子二人が同じ黄色帽の女の子に呼びかけている。去年の四月入学の一年生もすっかりたくましくなって前は大きかった帽子が小さくみえる。四月は二年生。心も背丈もちょっぴり背伸びして、ときめいているあの気持ち、どの学校の時もそうだった。誰の胸にも春を待つ心が息づき始める。

二月十一日
春寒やすぐ手につきし焚火の香
             『花影』 春寒=春
 焚火で芋を焼くなど、今の子供達には遠い話である。熱くてとても手でさわれない焼けた芋を新聞紙でくるみながら、「熟っ、熟っ」と言いつつ食べる。芋を割ると黄色いほっくりとした中身が。これこそ焚火の醍醐味だった。今はその焚火中々できない。庭から煙がたち昇れば一一九番、異臭がすればオウムだとなる。お盆の迎え火でさえおそるおそる。
大体、庭で焚火のできる家など都会では少ないのだ。落葉たきの童謡も、まして林間に酒を暖め紅葉を焼く白居易の漢詩など、インターネットや、ビデオでも決して体感できない世界がどんどん遠去かっていく。

二月十二日
病室を歩けば太し冬入日(ふゆいりひ)
            『薔薇粧ふ』 冬入日=冬
 六年前の二月十日、私は大腸がんと診断され、東京女子医大で手術を受けた。がんと言われて自分でも意外なほど冷静だった。主治医の馬渕先生は汀女もじっこんの人。女子医大は汀女が長年出入りしていた病院だった。私は病院の隅から隅まで知っていた。
「自分の好きな物で部屋を飾ると気が楽になるよ」。息子に言われて私は部屋中に犬の写真を飾った。入ってくる医師も看護婦も一瞬びっくりし、「犬が好きなんですねえ」。
 再発も転移もなく今日に至っているのはそのせいかもしれない。

『日めくり汀女俳句』 邑書林

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