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ロシア~アネクドートで笑う歴史~ №90 [文芸美術の森]

2 金持ちロシア人を嗤う 1

              早稲田大学名誉教授  川崎 浹

惨憺たる時代に

 情報公開が進むにつれて、アネクドートは口頭から紙片におおっぴらに印刷されるようになった。
 現代アネクドート集は質のわるい紙にタイプで打った薄っぺらなものから、ユーモア新開、。パンフや一冊の本になったものまで、さまざまな形で無数に発行されている。ペテルブルグの郊外電車では、少年が乗りこんできて、前口上よろしく艶笑小話の新聞を売ってまわっていた。いま私の手元にも『きわどいアネクドート』という名の本があり、俗謡のほかに、男の視線で女を笑うセクシュアル・ハラスメソトすれすれの小話がうんざりするほど紹介されている。
 一冊にまとめられた政治アネクドートですら、なかにはセックスがらみの作品があり、レーニンとかれの愛人で、妻ともいえるクルーブスカヤとの性賢が露骨に皮肉られている。聖域あつかいされている二人を、性をとおしておとしめるという理由づけもわからぬではないが、クルガーノフが「デカブリスト事件以後におけるアネクドートのしばしの低落」を批判したように、現代アネクドートでもこうした領域ではあきらかに質の低下が見られ、他国の艶笑小話と変わらないことになってしまう。
 さらに「アルメニア放送」のような禁止された遊びではなく、公開されたラジオやテレビ番組にすら進出した。しかし路上の若者にマイクをむけても、そうかんたんにアネクドートがはね返ってくるものではない。しかも番組制作者が自分流にアレンジするために、簡潔さや鋭さや間のリズム、要するに私がこれまでのべてきた文学ジャンルとしてのアネクドートの質の低下が見られはじめたのである。
 また、一般にいえることは、アネクドートそのものへの市民の関心が一時のように旺盛ではなくなったことだ。説明はどのようにでもつくが、要するにアネクドートを生む「愚かさ」すら消えて、「惨憺たる」時代になったことであろう。
 しかし、すでに半世紀の間に根づいた政治アネクドートの体質から抜けだすこともまた容易ではない。閉じることのできない笑う口腔(こうくうう)のなかに笑殺できる何かを押しこむ必要があるが、ここに格好の題材が浮上してきた。市場経済の導入によって生じた新興階級、一時ニューリッチと呼ばれた「新ロシア人」である。


『ロシアノユーモア』 講談社選書


※『ロシア~アネクドートで笑う歴史』の筆者、川崎浹さんのインタビュー番組が公開されます。公開日時は以下です。
 テレビ東京「美の巨人たち」
 「高島野十郎の蝋燭」は地上波で9月29日(土)夜10時。
  衛星放送「BSジャパン」で10月6日(土)夜10時。

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