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フェアリー~妖精 №93 [文芸美術の森]

「夏の夜の夢」と「嵐」 5

                     妖精美術館館長  井村君江

R・A・ベルとP・V・ウッドローフ

 ロバート・アニング・ベル(一八六三~一九三三)は彫刻家であり挿絵画家で、モザイクとステンドグラスのデザイナーとしても活躍した。
 ウエストミンスター寺院の西側の扉の上にある半円型の部分(テンパヌム)のモザイクや、ロンドンの議事堂のモザイク絵は傑作といえよう。初期の仕事はウォルター・クレインの影響が強いのであるが、シェイクスピアの『嵐』(一九〇一)の挿絵とブックデザインにも、木版の重厚さを枠の線で出そうとしているところが窺える。
 シェイクスピアの作品への挿絵は、『夏の夜の夢』(一八九五)『ラムのシェイクスピア物置(一八九九)『シェイクスピアの女主人公』(一九〇五)を十年の間に次々と出している。
 飾り枠で囲まれ、壁画のようにパターン化された雲やブドウの蔓の中に坐る、耳のとがったパック。しかしよく見ると三日月と星とが描かれてあり、中空高く飛翔している図であることがわかる。
 ステンド・グラスの図案のように四角い枠の中に描かれた乙女の裸身姿の妖精たちは、雲や海草や草花のパターンの中に美しいポーズをとり、ナットに用いたくなるような魅力に富んでいる。
 『嵐』(一九〇八)を同じように描いても、ポール・ヴィンセント・ウッドローフ(一八七五~一九四五)の世界は端正であり、エアリエルも子供っぽさをぬけて魅力ある若者の表情と身体つきをしている。ちょうどシェイクスピアの舞台で演じる若い俳優の姿を見るようである。
 ウッドローフはインドのマドラス生まれで、挿絵のほかステンドグラス、書物の装丁そしてポスター画家でもあったところから、実際の舞台の登場人物を念頭において描いたようである。
 エアリエルが、花々が咲き、虹のかかる中空に白い羽衣と白くひだのある衣をなびかせて浮かんでいるところなど、幻想的で美しく、手にしているのはヘルメスの杖のようで、古曲的な道具が似合う画面を作り出している。
 ウッドローフは人魚のほか妖精は描かず、あとはエアリエルをさまざまな姿で登場させているだけである。ファーディナンドやトリユンキロなど、人間と共に描くところには、白の薄い影のような透き通る姿にして中空を飛ばせたり、木蔭にひそませたりしているが、こうした描き方は夢や影の存在である妖精を描出するのに効果的である。
 ロバート・ヘリックの妖精詩『ヘスペリディース』(一八九七)やブラウニングの詩『すべて世は事もなし』二九一三)、そして『シェイクスピアの頃』(一九〇〇)に挿絵を描いているが、『嵐』の表紙が緑のクロスにドルフィンとタツノオトシゴに水藻をあしらったデザインを金箔で押した豪華本であるように、美術工芸(アーツ・アンド・クラフト)運動に関係していたこともある。ウッドローフはいずれもこのように美しいカバーデザインの書物を作っている。

R.アニング・ベル「嵐」のエアリエル.jpg
ロバート・アニング・ベル「嵐」のエアリエル

『フェアリー』 新書館



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