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ロシア~アネクドートで笑う歴史 №91 [文芸美術の森]

金持ちロシア人を嗤う 2

                  早稲田大学名誉教授  川崎 浹

「無教養」を笑う

 市場といっても、資本主義の需給関係に立つ市場ではなく、前近代的なバザールである。彼らはこのバザールで手段をえらはず荒稼ぎしたというイメージと、その無教養、非倫理性という点で、貧しい市民たちから腹いせの徹底的な嘲罵(ちょうば)をうける。
 私も自分の目で「新ロシア人」の豪勢な別荘を見たことがある。彼はカザフ石油公団の総裁で、石油を横流ししたことは明らかだ。つれの作曲家もそういっていた。初老の新ロシア人は「日本は土地がせまいから(こんな別荘はできないだろう)」と豪語した。地下のジムにはバーベルが置いてあった。
 アネクドートにおいて「新ロシア人」たちは相手に呼びかけるとき、日常的に用いられるタワーリシチやレビヤータではなく、ブラート(兄弟)から派生した、一般には使わない「プラタン」を用いる。これはマフィア同士の呼びかけで、またマフィアややくざ(レケチール)を指す名詞としても用いられる。たとえば「モスクワ・ソンツェヴォ・グループのメソバー」はロシア語で「プラタンイス ソンチェラスコイ フリガードウイ(原文・ロシア文字)」といわれる。そうした事情を知って読むと、つぎのアネクドートの「プラタン」と「あんた」の微妙な使い分けがわかって面白い。そして彼らのシンボルマークは必ず車のベンツとメルセデス(当時は別会社)である。

 交差点で赤信号になったので、ベンツとメルセデスがとまった。メルセデスの窓から新ロシア人の宝石の指輪でいっぱいの手がのびてきて、もう一人の新ロシア人が運転しているベンツの窓をノックした。
 「プラタン、トベルスカヤ通りにはどう行けばいいのかね?」
 まったく、答がない。
 「あんた、トベルスカヤにはどうやって行くのか聞いてるんだけど?」
 どんな反応もない。
 それでメルセデスの新ロシア人が見ると、ベンツのドライバーの手には指輪も腕輪もなかった。
 「なんだ、あんた、宝石類はもってないのかい?」           
 ベンツの新ロシア人はがまんできずに、やっとのことで車からでてきた。すると深い金製の長靴をはいていた。
 「見ろい、ブラタン、トベルスカヤにはああ行って、こう行って、それからこうだ」と金製の長靴の爪先でさしながら教えた。

 モスクワのトベルスカヤ通りといえば、東京の銀座通りだが、いままで車できたことがないのだから、成金かよほどの「田舎者」ということになる。新ロシア人の「無教養」を笑うばかばしいほど荒唐無稽な作品が、いくらでも出てくる。

 新ロシア人が貴金属店にやってきてキリストのついた十字架を見せながらいった。
 「これと同じ型で一〇キロのものを作ってくれないか。ただ体操選手ぬきでな」

 「無教養」を笑われているが、しかし、「新ロシア人」が話題になったころ、週刊紙「論拠と事実」は、「新ロシア人」夫婦の七〇~八〇パーセントが高学歴であるとの統計を掲載していた。これを伝えると、ある在日ロシア人女性は「学歴と教養人であることはちがいますからね」と、あくまで市民の見方に荷担していた。

 新ロシア人が通行人をはねた。ベンツからでてきた新ロシア人が、やっと地面から立ち上がった被害者にむかって叫んだ。
 「気をつけろ、うすのろ野郎!」
 「なんですって? バックしてまたはねる気ですか?」

 一般市民が新ロシア人を道徳的にまったく信用する気がないことが伝わってくる。

『ロシアのユーモア』 新潮社選書

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