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フェアリー~妖精幻想 №94 [文芸美術の森]

花と昆虫と小鳥の妖精たち 1

                   妖精美術館館長  井村君江

W・クレインの花の妖精たち

 挿絵の構図の簡略化や様式化、装飾化が進んでくると、超現実的な雰囲気や幻想性が加わり、それがかえって妖精界にふさわしい画面になってくる。
 ラファエル前派のウィリアム・モリスらのいわば私家本制作の工房ともいうべきケルムスコット・プレス(一八九一年設立)に見られるような、手作りの木版挿絵と活字で、中世のイルミネーションのような装飾デザインと、格調のある白く薄い羊皮紙の表紙本を作る造本技術は、十九世紀に多くの豪華な本を造り出す源になった。そしてまた、モリスの美術工芸)アーツ・アンド・クラフツ)運動も書物デザインとともに挿絵画家の位置を向上させていった。
 それと同時に一方においては、十九世紀末あたりからグラビア印刷技術やオフセット(四色平版)など、新しい印刷技術が発達したことなども、造本を中心にした挿絵装飾デザインの多様化をうながした。挿絵画家はもちろんのことカバー・デザイン、装傾、頁の活字、カットの装飾デザイナー、グラフィック・デザイナーたちが、アール・ヌーヴォー運動とも相まって多数輩出し、書物も部屋の装飾の一つとして見立てることが強調されるようになった。
 それと共に平行して、モロッコ革や裏革の表紙の染めや金箔押しの飾りを付けたりする、造本というより工芸技術に近い腕を持った職人たちや、見返しのマーブル紙の色染めを刷る技術者たちが多く出て、書物を一つの工芸品として創りあげる機運が高まっていたことも忘れてはならないことであろう。この時期、シェイクスピアの作品や十九世紀詩人の詩集のさまざまな豪華本が、有名な挿絵画家との共作によって生れているのである。本の装飾としての額縁飾りやカットなどの幻想美を生むために、超現実の妖精たちは恰好の主題として活躍の場を再び与えられる。
 挿絵は文学作品への隷属を逃れて、それ白身独立した別世界を作ることになっていくが、印刷業の家に生れたウォルター・クレインは、絵本挿絵の世界に新風を吹き込んだ画家の一人である。書物装飾(ブック・デコレーション)は挿画と活字と内容とが一つの書物を芸術品に作り上げることにあると唱え、その仕事を自ら「クレイン・ブック・デコレーション」と呼んでいた。
 そのクレインの「花の精(フローラ)のファンタジー」ともいえる、さまざまにパターン化された花の乙女の多色刷り石版画や、『シェイクスピアの庭からの花たち』(一九〇六)と名づけられた一巻などは、この時代の代表的な書物といえるものであろう。各頁は一枚の紙を二つ折にして袋綴じにし、中の木版画に重みが与えられている特別な造本に「なっている。各頁の花々の精のような人物画は、シェイクスピア劇の十五の場面から花に言及されたシーンをとりあげ、花のプァンタジーともいえる画面に仕立てていったものである。
 狂ったオフェリアによって配られる「思い出の花」ローズマリーは、その細い葉のドレスにピンクの花飾りをつけた細身の女性が思い出を振りかえるポーズをとっており、また『冬物語』でパーディタが村人に差し出す「太陽と一緒に寝て、また太陽と一緒に涙ぐんで目を覚すキンセンカ」(四幕三場)は、黄色い花のドレスを着た乙女が、沈む太陽を背に靴をぬぎ、キンセンカの上衣を手にしているというように、戯曲の内容をよく理解し
た構図やポーズを描いている。さらに花の怪質をとらえて、巧みにデザインされた服装をまとった人物たちは、劇中の台詞で言われる花の役をその表情とポーズでよく表現している。後世のパントマイムの衣裳デザインの先駆といえるほど、興味深い着想による、花と人との競演である。

W.クレイン「シェイクスピアの庭からの花たち」.jpg
ウイリアム・クレイン「シェイクスピアの庭からの花たち」

『フェアリー』 新書館

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